無名の運転手の日記 T

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2001年 6月

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日 付題 名
6月 1日(金) コ・レ・ア・ゲ・ル・・・。
6月 3日(日) 赤ちゃんの携帯・・・。
6月 5日(火) 老犬のお散歩・・・。
6月 7日(木) タクシーるんるん・・・。
6月11日(月) オーストラリアの首都は・・・?
6月15日(金) お金がないんだけど・・・。
6月17日(日) 生きるための力・・・。
6月19日(火) リッチなお客様・・・。



  2001年 6月 1日(金)   コ・レ・ア・ゲ・ル・・・。
駅まで近道をしようと、住宅街の細い道を走行していたら、20歳くらいの若い女性の手を引いて歩いておられるご婦人が手を挙げられた。
若い女性は、何か障害をお持ちのようで、歩行が困難なご様子であった。
急な上り坂の途中だったので、タクシーが来て助かった、と仰って頂けた。
車内では、ご婦人ばかりが話されて、若い女性は全く口を開かない。然し、穏やかな笑顔である。

駅に到着すると、その若い女性が不自由な右手を私に差し出した。右手には、飴玉がひとつ握られていた。
包装紙も無い、むき出しの飴玉なので、少し溶けている。
不自由なお口を開いて何か仰っている。
「コ・レ・ア・ゲ・ル・・・。」 
私には、そう聞き取れた。 
「ありがとう!」
私は溶けた飴玉をすぐに口に入れた。
温かかった。
笑顔で下車されたお二人に、私も笑顔でお辞儀をした・・・。
 
飴玉はとても美味しかった。
温かい飴玉って、特別に美味しいんだね・・・。
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  2001年 6月 3日(日)   赤ちゃんの携帯・・・。
赤ちゃんを抱いた、若い女性が手を挙げている。
ご乗車になると、早口で何か喋り始めた。
どうも、赤ちゃんとお話をしているようである。
「それでは、パパとおはなちちまちょうか・・・。」
「もちもち、パパでちゅか」と言いながら、「携帯」を赤ちゃんの耳元に押しあてている。
赤ちゃんは、「携帯」をしゃぶり始めた。
てっきり玩具の「携帯」かと思ったら、ピポパとボタンを押している。パパとつながったらしく、大人の会話が始まった。
すると、案の定、途中で「パパでちゅよ」と赤ちゃんの耳元に携帯を押しあてた。
赤ちゃんはまた「携帯」をしゃぶり始めた。
若い母親にとって「携帯」は「おしゃぶり」と兼用らしい・・・。
この赤ちゃんにとっては「携帯」がパパなのだろうか・・・。
自分達の時代との違いを思い知る。
価格的にも、本物の「おしゃぶり」よりも安いかも知れない。
駄目になったら「機種変更」をすれば良いのだろう。
携帯を使う赤ちゃん・・・。ふぅ〜。
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  2001年 6月 5日(火)   老犬のお散歩・・・。
明け番で帰宅する途中に、ワンちゃんのお散歩をされている方とすれ違うことは多い。
今朝も、ワンちゃんを連れたご婦人が、向こうから歩いてこられた。
しかし、様子がいつもと違う。首輪ではなくて、胴体数カ所に紐を結びつけていて、右腕で垂直にワンちゃんを支えている。
その足は細く痩せていて、自力歩行が困難なのであろう。
半分宙に浮きながら、まるでマリオネットのようである。それでも賢明に歩こうとしているワンちゃんの顔を見ていたら、思わず、(頑張れ!)と声援を送りたくなった。
ワンちゃんのボディを支えている、飼い主のご婦人もまた一生懸命である。お互いに必死でお散歩をしている。
長い長い生活が有ったのだろう。
そして今も、お互いに支え合っているのだろう。
あの老犬は、飼い主のご婦人のこころを支えている・・・。
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  2001年 6月 7日(木)   タクシーるんるん・・・。
若い3人連れのお客様に乗車を申し込まれた。
男性1名.女性2名である。
乗車される際に、「こんにちは。ヨロシクお願いします。」と声をかけて下さった。
礼儀正しい若者である。
どこか大手のチェーン店で、研修を受けている最中らしい。
途中で女性の一人が「タクシーるんるん、やらない?」と仲間に提案している。
他の2名も賛同して、一斉に「♪タクシーるんるん♪タクシーるんるん」と歌い始めた。
こちらは意味不明で狼狽えるばかり。
「♪タクシーるんるん♪ゼロイチゼロイチ!」
要するに、タクシー代を誰が支払うかを決めるゲームらしい。
男性が絶叫した。結局彼が敗者になったらしい。
楽しいと言えば楽しいのだろうが、彼等が下車した後も、私の頭の中では「♪るんるん」という歌声が回っていた。
大阪弁を喋っていたが、大阪ではみんな「タクシーるんるん」をやっているのだろうか・・・。
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  2001年 6月11日(月)   オーストラリアの首都は・・・?
今日はやたらと外国人のお客様が多い。
先ほどはマレーシアから来られたという親子連れのお二人を、ホテルまでお送りしたばかり・・・。
自分が行ったことの無いホテルだったので、道が分からなくて苦労した。マレーシアの方に道を教えて頂いて、何とか辿り着くことが出来た。会話は全部英語である。その方は以前、同じホテルに宿泊されたことが有り、今回で2回目なので、場所は記憶されていた。
実際、外国の方から道を教わることは多い。そこがその方の日常生活圏であれば、やはり周囲の道には詳しくなるようである。
ちょと、トホホの気分であるが、致し方ない。
今度のお客様はオーストラリアの方であるという。
この方は日本に13年も滞在されていて、日本語もOKであるが、勉強のため、こちらが英語を喋り、お客様が日本語である。
そこでオーストラリアの首都の話になった。
私はてっきりシドニーが首都だと思ったが、キャンベラであるという。シドニーは最大の都市ではあるが、首都ではない。
調度、アメリカの、ロサンゼルスとワシントンの関係に似ているという。
そう言われると納得である。
試しに「フジ子・ヘミングをご存じですか?」と尋ねてみた。
ご存じ無い・・・。
また今度、外国の方が乗られたら、同じ質問をするつもりだ。
「ええ、知ってます。カーネギーで演奏を聴きました。」という方と巡り会えたら、タクシー代はサービスして、お話を伺わなければ・・・。
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  2001年 6月15日(金)   お金がないんだけど・・・。
金曜日の夜、一番の稼ぎ時。
右折の為、右側車線で並んでいたら、中年の恰幅の良い紳士が他の車を遮って、ドアを叩いて乗車を申し込まれた。
ご乗車されると「運転手さん、お金がないんだけど、良いかね?」とのお言葉・・・。

こういうときの対処が難しい。酔ったあげくのジョーク?それとも本気?
今までも、たまたま手持ちが無くて到着地(ご自宅等)で、工面して支払われるということは有ったので、そういうことだろうと思って、「着いてからでも結構ですよ。」とお答えした。
すると、「着いてからでもお金がないんだよ!どうする?」
(ま・た・か・・・)時々、こういう分けの分からないことを仰る方をお乗せするケースがある。
仕方なく、「どちらへ?」と伺うと、「○○坂をくだって。」と目的地の指示が有った。
「今、下痢だから・・・。」
「へっ???」
「下痢だからくだってと言ってるんだ!」 
(あ〜あ・・・疲れる)
「面白いですね。でも、他の方に言うと、クダラナイと言われそうですが・・・」
「ハハハ。運転手さん面白いね。ところでそこの立体駐車場に入って!」
(なに〜!タクシーが立体駐車場に入ってどうする・・・!)
無理矢理駐車場に入る。
お客様はありったけの小銭を出して支払ってくれた。
その後が困った。
頭を立体駐車場に突っ込んだタクシーは、どうすれば?
係員も呆れている。
お客様が「オーライオーライ」と方向転換を誘導してくれているが、みんな笑っている・・・。
お客様だけが上機嫌。私のジョーク返しが気に入ったらしい。
あのお客様は、自分の車を駐車場に取りに来たらしい。
酔っておられたようですがねぇ・・・。
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  2001年 6月17日(日)   生きるための力・・・。
駅のタクシー乗り場で、松葉杖の女性がご乗車になった。
「運転手さん、乗るのに時間がかかるけれど、待って下さい。」
「どうぞ、どうぞ・・・。」
松葉杖を離して、ドアに手をかけてご乗車になったが、後部座席での座り方が、お人形のようである。
車中では、新しく出来たホテルのことが話題になった。
これまで随分と外国へお仕事で行かれて、色々なホテルに宿泊されたそうである。よくタクシーで成田空港まで行かれたという。
それが、3年前に交通事故にあわれて、お仕事どころか、歩行も困難になり、現在は無職になってしまったという。
車同士の事故ではなく、横断歩道を横断中に、RV車にひかれてしまったそうである。
30歳の男性ドライバーが、運転中に携帯電話を使用していて足元に落とし、それを拾おうとして、全く前方を見ないまま、交差点に突入したという。
3年前は調度、携帯電話が普及して、事故が激増した頃である。運転者の携帯電話に対する危険認識度が低かったのが原因である。
もろに腰部に打撃を受けて、失神してしまい、気が付いたときは病院のベッドの中だったという。
生憎、30歳の男性は任意保険を切り替えようとして、空白の期間中にこの大事故を引き起こしてしまった。

警察からの事情聴取で、彼の処罰をどうするかを問われた時に、彼女は「なるべく処罰を軽くしてあげて下さい」と頼んだという。
その理由をお尋ねしてみたら、「まだ30歳なのに、気の毒だったから」と仰った。
交通刑務所での服役よりも、こちらの現実の生活保障をして貰いたかったそうである。
結局、執行猶予となり、彼は労働しながら、金銭面での償いを続けているという。
任意保険が切れていた、ホンの僅かの隙間に起こした事故で、彼の運命は大きく変わってしまった・・・。

現在、この女性は、一匹の猫と暮らしているそうである。
14年前にお腹を風船のようにふくらませて、死にそうになって捨てられていた子猫を拾い、それから毎日賢明に看病を続けて、とうとう14年間も生き続けているという。
現在の彼女にとって、「生きる」と言うことは、この14年間一緒に生活してきた「一匹の猫」が全てだそうである。

「この子がいるから、私は生きていられるんです!」

「運転手さん、そこで停めて下さい。私の猫ちゃんが大好きなマグロのキャットフードを買わなくっちゃ・・・。」
彼女を支えているのは、松葉杖だけではなかった。
彼女の「生きるための力」は、猫ちゃんによって、支えられている。
彼女は車から降りて、ゆっくりゆっくりと一歩ずつ、お店へと進んでいった。その顔は笑顔で満ちあふれていた。
猫ちゃんが喜んで食べてくれる、その姿をこころに描いているかのようであった・・・。 
車を走らせた私の脳裏には、色々な方のお顔が浮かんできた。
「生きるための力」、それは・・・。
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  2001年 6月19日(火)   リッチなお客様・・・。
最近出来たばかりの高級ホテルの前を通りかかったら、ボーイさんに手招きされて、玄関へ。
そこには、50代後半とお見受けする男性が待っておられた。
お客様はご乗車になると、「ここのホテルのランチは大したこと無いな・・・。」と、ご自分が毎日、都内のホテルで昼食をされていることを話された。
伺うところよると、一人暮らしで、ホテルへの行き帰りにはタクシーを使って、一流ホテルで食事をするのが日課となっていると言うことであった。
お住まいは下北沢であるというので、「下北沢は、私も好きな街です。今度、北沢音楽祭に行くのです。」と申し上げたところ、「ほう、クラシックに興味をお持ちですか?」と身を乗り出して来られた。
この方は、10歳くらいの頃から、クラシック音楽を聴き始め、今ではクラシックのCDを3,000枚所有されていると言うことであった。
3,000枚である。想像も出来ない。
私が「フジ子・ヘミングさんをご存じですか?」と伺うと、「知らないなぁ・・・」というお答え。(ブチッ・・・)
「ここが家だよ。」と、ご自分のビル前に到着した。
「フジ子・ヘミングウエイか・・・。」と呟いて降りて行かれた。
それにしても、後ろ姿が寂しそうなお方でした。
フジ子・ヘミングウエイ・・・(違うっちゅーの!)
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