無名の運転手の日記 T

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日 付題 名
3月 1日(金) 「ありがとう」をありがとう・・・。



  2002年 3月 1日(金)   「ありがとう」をありがとう・・・。
春の天候は極めて不安定である。
少し空が曇って強い風が吹き、そしてすぐに大粒の雨が降り出した。
普段はあまりお客様がいないので、滅多に通らない立体交差の下をくぐる。
すると立体交差から少し離れた所で、車椅子の青年が降り出した雨に打たれながら、懸命に手を挙げている姿が私の目に飛び込んできた。
瞬間的に(この道を通って良かった・・・)と思った。
車を停車させてドアを開け、車椅子のお客様にお尋ねしてみた。
 「お手伝いいたしましょうか?」
すると、青年は「お願いします。」と、明るい声で答えてくれた。
 「一人で乗ることが出来ますので、車椅子をトランクに入れて下さい。」
下半身がまったく動かないので、両手で足を保持しながら自力で座席に座られた。
青年に車椅子の折り畳み方を教わって、トランクルームに収納して走り出した。
行く先は勤務先である。
車内では、青年から色々なお話を伺うことが出来た。
明るい声でお話になるので、車内ではとても話が弾んでいる。
ある事故により下半身が完全にマヒしたが、今は車の運転もご自分でされるそうである。
車の全ての操作を、手だけで出来る車が有ると言うことであった。
まことに失礼ながら、私は思い切って青年に次のようにお尋ねしてみた。
 「事故に遭われる前とその後では、ご自身はどのように変わられたのでしょうか?」
すると青年は、明るい声で答えてくれた。
 「基本的には何も変わらないのですが、ただ一つ、自分でも驚いているのは、『ありがとう』の言葉が、とても素直に言えるようになったことです。」
下半身の障害については、30歳を越えてからの事故だったので、ありのままを受け容れており、今現在は悩むことも無くなったそうである。
事故に遭う以前は、日常生活の中で「ありがとう」の言葉がなかなか出てこなかったが、今は多くの方に手伝って頂く場面で、素直な気持ちでこころから「ありがとう」と言えるようになったことが嬉しい、と仰るのである。
そして、どの程度の手助けが必要なのかは、手伝ってくれる方に予め伝えるようにしているとのことであった。
自分の上半身はまったく問題が無いので、何でもかんでも人に手伝って頂く必要はなく、自分で出来ることは自分でするように心掛けておられるそうである。
目的地に到着したので、車椅子を準備した。
青年が下車されるときに、右足の靴がぬげてしまい、車内に残ってしまった。
青年は、「自分で取りますので。」と仰りながら、右手を伸ばして靴を右足に履かせた。
危うく私は、余計な手助けをするところであった。
青年の上半身は、まったく問題なく自由に動かせるのである。
「何でもかんでも」というのは、このことだったのだなぁ、と思った。
指示されたとおりに車椅子の背に、リュックをかける。 
青年は、明るい声で「ありがとうございました。」と言って微笑んだ。
私は手を振って、車を発進させた。

 「ありがとう」をありがとう・・・。
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