無名の運転手の日記 T

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日 付題 名
7月 1日(月) 暑いとか寒いとか・・・



  2002年 7月 1日(月)   暑いとか寒いとか・・・
午後になって雲行きが怪しくなってきた。
今にも大粒の雨が降り出してきそうな気配である。
住宅街の角を曲がると、ご婦人が険しい表情で手を挙げておられる。
ご乗車になって目的地をお尋ねすると、大きな病院名を告げられた。
「今日は少しお暑いですね・・・。」
私が時候のご挨拶を申し上げると、お客様からは次のような言葉が返ってきた。
「暑いとか寒いとかは、私には関係がありません。」
更にご婦人はお話を続けておられる。
「今日は雨が降る前に乗れたけど、先日は降られてしまって、ビショ濡れになって慌てて着替えに戻ったのよ。」
 「それは大変でしたね。」
「どうして私ばかりが、いつもこんな目に会うのかしら・・・。」
会社を経営されているご主人が倒れて入院され、かわりにご婦人が会社経営と家事を担っておられるので、殆ど睡眠時間がとれていないとのことである。
社会人の息子さんはまだまだお若くて、とても会社経営が出来る段階では無いそうである。
ご主人の病はかなり重症で、既に数年も入院生活が続いているとのことであった。
以前、病院で会社経営の苦しい実状をご主人に話したところ、すっかり病状が悪化してしまい、それからは「本当のこと」は知らせないようにして、ご婦人お一人の胸のウチに納めているそうである。
従業員や息子の前で弱音を吐く分けにもいかず、「気丈夫な奥さん」のフリをし続けているとのことであった。
先日、病院の待合室で座っていると、ご高齢の上品なご婦人に声をかけられたそうである。
 「あなたはずっと以前の私と同じ表情をされていますね。」
 「そのお顔で面会をされると、病人の方が心配をされると思います。」
 「病院の中に一歩入ったら、観音様になることです・・・。」
ご高齢のご婦人は、とても素敵な笑顔で諭すように語ってくれたそうである。
後から伺ったら、その方のご主人は、某女子大学の学長とのことであった。
「ですから、私は病院では観音様のフリをして主人を騙しているのです。」
 「それならいっそのこと、本当に観音様になられたら如何ですか?」
「運転手さんは、面白い方ね・・・。」
病院に到着して、ドアを開ける。
下車される際に、お客様のお顔が見えた。
ご婦人は、観音様のような表情で微笑んでおられた・・・。
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