無名の運転手の日記 T

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 日記
日 付題 名
12月 7日(日) 電車のドアが開いたら・・・。
12月31日(水) 97歳の大晦日・・・。



  2003年12月 7日(日)   電車のドアが開いたら・・・。
12月は忘年会シーズンなので、ついつい酒量が増してしまう方が多いようである。
私はお仕事を終えていつもの始発電車に乗った。
週末の始発電車は、盛り場で一夜を明かした若者で混雑している。
車内の座席は全部埋まっており、泥酔した一人の若者が車内の床に座り込んで両足を投げ出している。
両腕を前に組んで深く寝入っているが、頭と背中はドアにもたれかかっている。
駅で電車が停車するとドアは開く・・・。
私が下車する駅までは進行方向左側のドアが開閉するので、若者がもたれかかっている右側のドアが開くことはない。
やがて私が下車する駅が近付いて来た。
若者の目が覚める気配は一向にない。
電車が駅に停車して進行方向右側のドアが開くと、若者は後ろに転倒する筈である。
ホームとの段差があるので、後頭部をかなり強打する怖れもある・・・。
車内を見渡すと、私と同年代と思われる一人の男性と目が合った。
その男性と私は立ち上がって若者に近付いた。
「次の駅ではこちらのドアが開くんですよ」
その男性も若者が転倒することを案じていることが分かった。
私は彼の外套を掴んで思い切り上に引き上げた。
「このドアが開くよ」・・・。
すると若者は「スイマセン」と言いつつ、フラフラと立ち上がって空いていた座席に座ってすぐに寝入った。
私と同年代と思える男性と目が合っていなかったら、私は若者に声をかけていただろうか。
同じ車内にいた多くの若者たちは、ただじっと見ているだけであった。
以前の私だったら、同じように見ているだけだったかもしれない。
そのとき私を立ち上がらせたのは、あるピアニストの微笑みだった・・・。
ただ見ているだけでは駄目なのである。
私はもっと早く彼に声をかけるべきだったと思う。
電車のドアが開いた。
私はいつものようにいつもの駅で降りた。
そしていつものように私の一日が終わる・・・。
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  2003年12月31日(水)   97歳の大晦日・・・。
こちらに向かって手を挙げて走って来るご婦人に気が付いた。
私は車を停車させて目的地をお尋ねする。
「すいません。年寄りを乗せたいので路地に入って下さい・・・。」
ハンドルを左に切って細い路地に入ると
ご婦人は「と言っても、私も70を過ぎているから年寄りなんですけど・・・。」
と仰りながら微笑まれた・・・。
「97歳の年寄りを○○近くのびよういんに連れていきたいんです。」
私は○○という地名を聞いて、「××大学付属病院」を思い浮かべた。
「すると××病院ですか?」とお尋ねすると
「いいえ、病院ではなくて『美容院』なのです・・・。」
間もなくご自宅の前に到着すると、高齢のご婦人と息子さんらしい方が立っておられた。
お年寄りは、点滴のチューブを身体につけて後部座席にご乗車になった。
助手席に座った男性は、私の車に手を挙げたご婦人のご主人であった。
「毎年、大晦日には昔なじみの美容院で髪をセットして貰っているんです。」
私は97歳と聞いて、すぐに「病院」を連想してしまった自分を恥じた・・・。
お年寄りはしきりに門松のことを心配されていた。
「お正月の前に門松を出しておいたら、誰かに持って行かれちゃうからしまっておきなさい!」
するとご婦人は「おばあちゃん、明日はもうお正月ですよ」と優しく微笑みながら静かに仰った。
助手席のご主人は「数え年で言えば99歳なんだけど、自分では一つ多く年を言いたがるんですよ〜」と笑いながら私にお話になった。
「『数え年』と言うのは、母親の胎内に命が宿ったときからの年を数えるんですよ。」
(なるほど・・・確かに命が宿ったときからの年を数えた方が意義が深いなぁ)と私は思いました。
やがて美容院の前に到着すると、車の音に気が付いて美容師のご婦人がお迎えに出て来られました。
97歳のお年寄りと美容師のご婦人は、手を取り合って嬉しそうに微笑みながら、お互いにじっと見つめ合っておりました。
97歳のお年寄りが大晦日に点滴を受けながらも髪をセットして貰いたかったのは、このご婦人との出会いが、人生のかけがえの無い大切な一部になっているからであることがよく分かりました。
私は車を発進させながらバックミラーでお年寄りと美容師の方のお姿を見ていたら、とても胸が熱くなりました。
(来年は98歳の大晦日ですね。おばあちゃん・・・)
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